2021年ベストアルバム
サブスクが普及する前は旧譜やリイシューばかり聞いていて、年間ベストアルバムを発表できるほど新譜を聞いていなかったのだけれど、数年前にSpotifyのプレミアム会員になってからは以前より新譜を聞く機会が増えた。
そこで私の個人的な2021年ベストアルバムを発表したいと思う。選出基準は世間的にヒットしたとか、2021年という時代ににそのアルバムが発表された意義とか、そういうのはまったく抜きにして、あくまで個人的に好印象を持ち繰り返し聞いたアルバムである。記事タイトルはベストアルバムとしたが、そういった意味ではフェイヴァリットアルバムの方が適切かもしれない。
以下、順位はなくリリース順に紹介する。
- Steven Wilson『THE FUTURE BITES』
- THE YELLOW MONKEY『Live Loud』
- black midi『Cavalcade』
- V.A.『風街に連れてって!』
- 矢野顕子『音楽はおくりもの』
- 桑田佳祐『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』
- King Crimson『Music Is Our Friend』
- Brian Wilson『Long Promised Road Original Motion Picture Soundtrack』
- KIRINJI『crepuscular』
Steven Wilson『THE FUTURE BITES』
Steven Wilsonの6thソロアルバム。当初は2020年6月に発売予定だったが新型コロナウイルスのパンデミックを理由に発売が延期され2021年1月に発売された。2021年1月もパンデミックの真っ只中だったので延期の意味があったのかはわからない。
私がSteven Wilsonを聞き出したのは『The Raven That Refused To Sing (And Other Stories)』(2013年)からで、きっかけはProg誌の発表したランキングで上位にランクインしていたから。
ただ『To The Bone』(2017年)からエレクトロポップ/シンセポップへと路線変更する。当時はSteven Wilsonにプログレを期待して聞いていたので路線変更に戸惑いがあった。
本作も基本的には『To The Bone』(2017年)と同じ路線のエレクトロポップ/シンセポップだけれど、この人が作ると一筋縄ではいかないし、表面的なジャンルが変わってもSW節は変わらない。それがわかってからはジャンルなんか関係なく良い音楽を作るミュージシャンという認識になった。
アコースティック・ギターの響きが初期のDavid Bowieを思い起こさせる「12 THINGS I FORGOT」がフェイヴァリットトラック。
THE YELLOW MONKEY『Live Loud』
THE YELLOW MONKEYの2枚目のライブアルバム。2001年の活動停止前の曲はそれなりに聞いていて、好きな曲もいくつかあったけれど、2016年に再結成してからの動向はまったく追っていなかった。
有名な曲が収録されていることをきっかけに本作を聞いたが、2016年の再結成以降の「ALRIGHT」「砂の塔」や「天道虫」といった曲が2001年の活動停止前の曲と同じぐらいかっこよかった。
若者にとってロックが旧態依然としたものだったりかっこ悪いものと捉えられがちな昨今だけれど、THE YELLOW MONKEYは変わらずに色気のあるあやしくてかっこいいロックをやっていた。
再結成後のシングル曲「砂の塔」がフェイヴァリットトラック。
black midi『Cavalcade』
black midiの2ndアルバム。1stアルバム『Schlagenheim』が話題になったときにも聞いたけれどそのときはピンとこなかった。
だけれど本作は先行シングルの「John L」を聞いたときからシンプルにかっこいいと感じた。2ndアルバムの方が好みなのは1stアルバムより作曲を重視しているからだろうか。
ジャンル的にはインディーになっているが、キング・クリムゾンからの影響を公言しておりプログレ的な側面もある。サウンド的には現代ジャズシーンと呼応するものも感じた。
UKのインディーシーンが今熱いということで、他にも話題のバンドがあり気になったがしっかり聞き込めず。
先行シングルだった「John L」がフェイヴァリットトラック。
V.A.『風街に連れてって!』
松本隆のトリビュートアルバム。亀田誠治がサウンドプロデュース。収録された曲はいずれも名曲だから、どう転んでも大きくはずれようはないのだけれど、人選・選曲・アレンジがよかった。
収録された曲のオリジナルが流行っていた世代には幾田りら(YOASOBI)、川崎鷹也、DAOKO、GLIM SPANKY、Little Glee Monsterといった新世代のアーティストを紹介することができ、それら若いアーティストのファンには往年の名曲を紹介することができる。
名曲を歌い継ぐということはもちろん、このアルバムを通じて幅広い世代が交流できるという意味でも意義深いアルバムだった。
池田エライザが歌った「Woman "Wの悲劇"より」と川崎鷹也が歌った「君は天然色」がフェイヴァリットトラック。
矢野顕子『音楽はおくりもの』
矢野顕子の28thアルバム。近年の矢野顕子のアルバムはまったく追っていなかったので、彼女のキャリアでこの作品がどういう位置づけになるのかわからない。
矢野顕子という唯一無二のボーカリスト/ソングライターがいて、良い曲があって、良いアレンジがあって、良い演奏があるというそれだけの作品。
それらしいことを言うと小原礼(ベース)、林立夫(ドラムス)、佐橋佳幸(ギター)という気心の知れた固定メンバーで全曲レコーディングしたのがよかったのだろう。
Twitterで"The Yanoakiko"というバンドだと矢野顕子、小原礼、林立夫がツイートしていたように、シンガーソングライターとスタジオミュージシャンという関係性ではない一体感がある。
アルバムを聞く前はベースが小原礼でドラムが林立夫とくれば、ギターは佐橋佳幸ではなく鈴木茂のほうが良かったのではと思ったけれど、実際に聞くとしっかりと佐橋佳幸だからこその音になっていた。
コロナ禍において私達にとって音楽の意味とはなにか見つめ直したと言えそうな「音楽はおくりもの」がフェイヴァリットトラック。
桑田佳祐『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』
桑田佳祐のEP。放っておくと70分ぐらいのフルアルバムを作ってしまう桑田佳祐だが、本作は6分で約26分と非常にコンパクト。サブスク時代に向いている長さだと感じた。
「SMILE~晴れ渡る空のように~」は新型コロナウイルスのパンデミックによって国民に支持されない東京オリンピックの応援ソングとなってしまったのは不運だった。
それでも"夢に向かってがんばろう"や"一緒に盛り上がろう"ではなく「世の中は今日この瞬間も 悲しみの声がする 次の世代に 何を残そうか」といったメッセージを込めた歌詞だったのは不幸中の幸いだった(ちゃんと歌詞を読まないでこの曲を批判している人もいたが)。
「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」と「炎の聖歌隊 [Choir]」は近年の桑田佳祐の楽曲の中でも会心の出来だった。新機軸はなく金太郎飴かもしれないが、ファンの多くが桑田佳祐に期待する"洋楽の影響を受けた歌謡曲"に完全に応えた楽曲だった。
「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」と「炎の聖歌隊 [Choir]」がフェイヴァリットトラック。
King Crimson『Music Is Our Friend』
King Crimsonのライブアルバム。2014年にトリプルドラム編成で活動を再開してから何枚もライブアルバムをリリースしているし、正直またかという気がしないでもない。
それでも本作が特別な意味を持つのはKing Crimsonの最後のアメリカツアーの最終日を収録した作品であること。そして11~12月にKing Crimsonの最後のジャパンツアーが行われたからである。
現行編成のKing Crimsonがその活動の最後の地に日本を選んだこと、ジャパンツアーが奇跡的なタイミングで成功したことも日本のファンにとっては特別な思い出だ。その最後のジャパンツアーを振り返るには、ほぼ同じセットリストでほぼ同じアレンジの本作が最適だ。もちろん演奏もすばらしいことは言うまでもない。
本作はCD化のためのミキシングは行っていないオフィシャルブートレグであり、おそらくいずれは最後のジャパンツアーを収録したCDや映像作品がリリースされるだろう。
Brian Wilson『Long Promised Road (Original Motion Picture Soundtrack)』
Brian Wilsonの新しいドキュメンタリー映画のサウンドトラックアルバム。Brian Wilsonは彼の書いた「God Only Knows」などの名曲をピアノソロで演奏する『At My Piano』を11月にリリースしたが、ほぼ同時期に配信限定でこのサントラがリリースされた。
映画を見ていないのでサントラ収録曲が映画本編でどのように使われているのかわからない。ただ、本作に収録されているのはいわゆる劇伴音楽ではない。
Brian Wilsonの新曲、新録音と思われるカバー、新録音と思われるThe Beach Boys曲のセルフカバー、ブートレグではおなじみだったがオフィシャルリリースは初の蔵出し音源などで構成されている。実質的にBrian Wilsonのソロアルバムとして聞ける充実した内容だ。
配信限定なのであまり宣伝には力が入っていない気がする。誰もが知っている有名な曲が収録されている『At My Piano』のほうが売れるのかもしれないが、個人的にはピアノソロよりもBrian Wilsonの歌声が聞ける本作のほうが好みだ。
KIRINJI『crepuscular』
バンド形態を解消し堀込高樹のソロプロジェクトとなったKIRINJIの新体制としては初めてのアルバム。
一昨年ぐらいからKIRINJIにドハマリしていて、このアルバムもかなり期待していた。
『cheristh』リリース時のインタビューで堀込高樹は、次作は方向性を変えようかと思っていたが『cheristh』の路線が好評なのでこの路線で続けたいと語っていた。
実際に本作は基本的には『愛をあるだけ、すべて』『cherish』の流れを汲む作品である。
ただ『愛をあるだけ、すべて』『cherish』がフロア向け(=ダンス・ミュージック)のビートだったり音響だったりしたのに対し、コロナ禍で集まることができずに家でひとりで音楽を聞くシーンが増えたことを意識してか、本作はヘッドホン向けの音楽性/音響になった印象を受けた。世の中的には"チル"が流行しているらしいが、本作もチル要素が強い。
『愛をあるだけ、すべて』や『cherish』を超える傑作とまでは感じなかったものの、期待通りの高水準のアルバムだと思う。
コロナ禍を歌った曲が何曲か収録されているが、そのなかでも「再会」がフェイヴァリットトラック。