あがた森魚『ボブ・ディランと玄米』
あがた森魚は1972年4月25日にシングル「赤色エレジー」でデビューした。2022年にデビュー50周年となりCD4枚組ベストアルバムがリリースされる。タイトルは『ボブ・ディランと玄米』。発売元であるBRIDGEのウェブサイトに収録曲が発表された。
今回はその収録曲を確認したい。
ディスク1
ディスク1は1970年代に発表された楽曲から20曲を年代順に収録している。
- 赤色エレジー
- 君はハートのクイーンだよ
- 大道芸人
- 清怨夜曲
- 星のふる郷
- 元祖ラヂヲ焼き
- 上海リル
- はいからはくち
- モンテカルロ珈琲店(小さな喫茶店)
- 最后のダンスステップ(昭和柔侠伝の唄)
- 大寒町
- 僕は天使ぢゃないよ
- 航海 I
- リラのホテル
- 航海 III
- つめたく冷して
- 最后の航海
- ノオチラス艦長ネモ
- 僕は泣いちっち
- サルビアの花
「赤色エレジー」はこれまでのベストアルバムと同じくシングルバージョンでの収録だと思われる。
「君はハートのクイーンだよ」「大道芸人」「清怨夜曲」は『乙女の儚夢』(1972年)から。
「星のふる郷」「元祖ラヂヲ焼き」「上海リル」「はいからはくち」「モンテカルロ珈琲店(小さな喫茶店)」「最后のダンスステップ(昭和柔侠伝の唄)」「大寒町」は松本隆プロデュースの『噫無情(レ・ミゼラブル)』(1974年)から。今回のベストアルバムでは最多の7曲を収録。「はいからはくち」ははっぴいえんどのカバー。
「僕は天使ぢゃないよ」はサウンドトラック『僕は天使ぢゃないよ』(1975年)から。
「航海 I」「リラのホテル」「航海 III」「つめたく冷やして」「最后の航海」「ノオチラス艦長ネモ」は細野晴臣プロデュースの『日本少年』(1976年)から。「つめたく冷やして」はエルヴィス・プレスリー「冷たくしないで(Don't Be Cruel)」の歌詞を替えてカバーしたもの。プロデューサーである細野晴臣も中華街ライブで歌っている。
「僕は泣いちっち」「サルビアの花」は矢野誠プロデュースの『君のことすきなんだ』(1977年)から。「僕は泣いちっち」は浜口庫之助作品のカバー(オリジナル歌唱は守屋浩)。「サルビアの花」は早川義夫のカバー。
過去のベストアルバム『20世紀漂流記』『星繁き夜の提督たちへ』『大航海40年史』と比べてみると20曲中11曲が初めてベストアルバムに収録される。
単曲として見るとベストアルバムに収録されるような代表曲ではない「元祖ラヂヲ焼き」「上海リル」「はいからはくち」「航海 I」「航海 III」「最后の航海」が収録されているのがめずらしい。
『噫無情(レ・ミゼラブル)』や『日本少年』のコンセプトアルバムとしての側面をベストアルバムの中でも再現しようという試みなのだろう。
ディスク2
ディスク2は1980年代に発売されたアルバムから15曲を収録している。ディスク1とは異なり収録順は若干前後するところがあり、厳密な意味での年代順ではない。
- いとしの第六惑星
- 春の嵐の夜の手品師
- スターカッスル星の夜の爆発
- 水晶になりたい
- エアプレイン
- サブマリン
- 星空サイクリング
- ロンリー・ローラー
- ウィンター・バスストップ
- 百合コレクション
- バンドネオンの豹
- 誰が悲しみのバンドネオン
- 夜のレクエルド(Recuerdo)
- パール・デコレーションの庭
- 骨
「いとしの第六惑星」「春の嵐の夜の手品師」「スターカッスル星の夜の爆発」「水晶になりたい」は『永遠の遠国』(1985年)から。
『永遠の遠国』はレコード3枚組でLP1"キャラメルセット"とLP2"シガレットセット"は1977年の録音、LP3"チョコレットセット"は1983年の録音である。「いとしの第六惑星」「春の嵐の夜の手品師」の2曲は1977年の録音なので、ディスク1に入れたほうがサウンド的には統一感が出たのではないかと思う。
「スターカッスル星の夜の爆発」はレコード片面を使った20分超のバージョンもあるが、ベストアルバムに収録されるのは2分30秒ほどのバージョンだと思われる。
「エアプレイン」「サブマリン」は『乗物図鑑』(1980年)に収録されているあがた森魚のソロバージョンと、あがた森魚がA児名義で結成したテクノポップバンド"ヴァージンVS"のバージョンがある。今回のベストアルバムでどちらが収録されるのか現時点では不明。
「星空サイクリング」「ロンリー・ローラー」「ウィンター・バスストップ」「百合コレクション」はヴァージンVSの曲。「ロンリー・ローラー」は『ヴァージンVSヴァージジン』(1981年)から。「百合コレクション」は鈴木慶一プロデュースの『羊ヶ丘デパートメントストア』(1987年)から。「星空サイクリング」はアニメ「うる星やつら」の主題歌だった。
「バンドネオンの豹」「誰が悲しみのバンドネオン」「夜のレクエルド(Recuerdo)」「パール・デコレーションの庭」はタンゴとニューウェーブを融合したアルバム『バンドネオンの豹』(1987年)から。「パール・デコレーションの庭」では矢野顕子とデュエットしている。
「骨」は『ミッキーオの伝説』(1988年)から。当時再結成したはちみつぱいの曲。
ディスク3
ディスク3は1991~2001年のアルバムから12曲を年代順に収録している。
- 月食
- サイレント・イヴ
- マッチ工場とあじさい
- まぶたと胸とで憶えてる
- キットキット!!遠く遠く!!
- トリカゴの街
- 喧嘩のあとでALPHABET
- 港のロキシー
- 佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど
- 億光年の岩で転げてる
- 風立ちぬ
- 太陽コロゲテ46億年
「月食」はじゃがたらのOTOやムーンライダーズの武川雅寛らと結成した雷蔵の唯一のアルバム『雷蔵参上』(1991年)から。
「サイレント・イヴ」はカバーアルバム『イミテーション・ゴールド』(1993年)から。辛島美登里のカバー。
「マッチ工場とあじさい」は『少年歳時記』(1993年)から。
「まぶたと胸とで覚えてる」はサウンドトラック『オートバイ少女』(1994年)から。
「キットキット!!遠く遠く!!」は日産ラシーンのCMソングとして作られた1995年のシングル曲。オリジナルアルバムは未収録。後にベストアルバム『20世紀漂流記』や『大航海40年史』に収録された。
「トリカゴの街」「喧嘩のあとでALPHABET」は鈴木惣一朗プロデュースの『第七東映アワー』(1996年)から。
「港のロキシー」はサウンドトラック『港のロキシー』(1999年)と鈴木慶一プロデュースの『日本少年2000系』(1999年)に収録されているがアレンジが違う。今回どちらのバージョンが収録されるのかは現時点では不明。ちなみに『20世紀漂流記』には前者のバージョンで収録されていた。
「佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど」「億光年の岩で転げてる」「風立ちぬ」「太陽コロゲテ46億年」は『佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど』(2001年)から。「風立ちぬ」は松田聖子のカバー。
ディスク4
ディスク4は『ギネオベルデ(青いバナナ)』(2004年)以降のアルバムから14曲を収録している。
- 少年カリブ
- 矢車草の夢みたいなこと
- 弥勒
- 俺の知らない内田裕也は俺の知ってる宇宙の夕焼け
- るるもっぺべいぶるう
- 山椒魚が出てきた日
- のわあるわるつ
- 浦島64
- べいびぃらんどばびろん
- 百合をあげるペガサスに
- 太陽系というふる郷(あいわんだぁゆあわんだぁ)
- ろっけんろおどを行くよ
- 宙返りして校庭で
- 不思議な乗り物だね
「少年カリブ」「矢車草の夢みたいなこと」は青柳拓次プロデュースの『ギネオベルデ(青いバナナ)』(2004年)から。ドミニカ共和国サント・ドミンゴで録音された。
「弥勒」は久保田麻琴プロデュースの『タルホロジー』(2007年)から。楽曲自体は1970年代後半に書かれたもので未CD化の『Album #1977』に当時のデモバージョンが収録されている。
「俺の知らない内田裕也は俺の知ってる宇宙の夕焼け」「るるもっぺべいぶるう」は『俺の知らない内田裕也は俺の知ってる宇宙の夕焼け』(2011年)から。
「るるもっぺべいぶるう」はあがた森魚の全都道府県ツアーと九段会館での還暦ライブを追ったドキュメンタリー映画『あがた森魚ややデラックス』の主題歌。
「山椒魚が出てきた日」はアルゼンチン録音を含むタンゴアルバム『誰もがエリカを愛してる』(2011年)から。
「のわあるわるつ」は"あがた森魚と山崎優子"名義で発表されたアルバム『コドモアルバム』(2011年)から。
「浦島64」は窪田晴男プロデュースの『浦島64』(2014年)から。
「べいびぃらんどはばびろん」は"あがた森魚&はちみつぱい"名義で発表されたアルバム『べいびぃらんど』(2017年)から。
「百合をあげるペガサスに」「太陽系というふる郷(あいわんだぁゆあわんだぁ)」はニューヨーク録音の『観光おみやげ第三惑星』(2019年)から。
「ろっけんろおどを行くよ」「宙返りして校庭で」は『浦島2020』(2020年)から。
「不思議な乗り物だね」は"あがた森魚るびぃ"名義で発表された『わんだぁるびぃ2021』(2021年)から。同アルバムには「不思議な乗り物だね二人で乗っている」と「不思議な乗り物だね(あっという間だったね)」とが収録されている。後者は前者の変奏によるリプライズという扱いなので、おそらく前者が収録されるのだと思われる。
はっぴいえんどが出演した「若いこだま」
ひさしぶりに『はっぴいえんどBOX』(2004年3月31日発売)を開いた。CD-EXTRAとして全日本フォークジャンボリーにおいてはっぴいえんどがバックバンドをつとめた岡林信康の映像が収録されていたのは覚えていたが、他のディスクにもCD-EXTRAとして様々なコンテンツが収録されていたことはすっかり失念していた。
そのひとつが1971年12月3日にNHKラジオ第一で放送された「若いこだま」をエアチェックした音源である。この音源ははっぴいえんどファンとして知られる俳優の佐野史郎から提供されたものだ。
『風街ろまん』の発売日が1971年11月20日なので、「若いこだま」出演は『風街ろまん』発売から約2週間しか経っていないことになる。
現在読むことのできる『風街ろまん』に対する評論のほとんどは、はっぴいえんどが伝説のバンドと呼ばれるようになってから、『風街ろまん』が名盤と呼ばれるようになってから書かれたものである。
そういう意味で伝説のバンドの名盤ではない『風街ろまん』に対する渡辺武信の分析は非常に興味深いものだった。
YouTubeにアップロードしても怒られないのかもしれないが著作権的に問題になりそうなので躊躇した。代わりに17分2秒の音源を文字起こしした。文字起こしなら著作権の問題が完全に解消されるわけではないが大目に見てもらえるだろう(もし怒られたらこの記事は削除します)。
以下の文字起こしは、話を理解しやすくなるように話題ごとに見出しをつけた。
『風街ろまん』とは何か?
吉見佑子:『風街ろまん』っていうのはどういうことなんですか?松本さん。松本さんにとってどういう……なにこだわってるのかしら?
松本隆:結局ね、僕がこだわっているのは、僕が幼年時代を過ごしたね、街が今の青山にあって、それが今もうあれなんですね、ビルディングとかね、僕の生まれて育った家なんかがもう道路の下になって、あれオリンピック道路っていうんですけど。だからそういう、なんて言ったかな、都市にね、東京っていう都市に僕の幼年時代は塗り込められたような気がしてね、アスファルトとかコンクリートに。それで奪、なんていうのかな、取られちゃったような気がしてね。そういうところで、そんなら僕らがそういう幼年時代を過ごした風景みたいのをね、どういうふうに取り返すかっていうことをね。それが風街っていう言い方したんですね。
吉見佑子:ふーん。はぁ、そうですか。
松本隆:で、あのジャケットを見てもらえればわかるけど、都電の絵が描いてあって。で今都電が走っているところっていうのはね、昔青山にも走ってたわけですね、それはもうなくなっちゃって、そういうものってちょっとさびしいでしょ。
吉見佑子:なんとなく聞いてるとさ、胎内回帰みたいな気がしないでもないんだけれども、そのへんはどうですか?なんか非常にセンチメンタリズム的なものを……。
松本隆:いや、閉じこもっちゃうっていうんじゃなくてね。却って僕らがそこから引っ張り出してきて……。
吉見佑子:なぜ引っ張り出すの?
松本隆:うーん。なんて言ったらいいのかな。果てしなく明日があるからじゃないですかね。
一同:笑
渡辺武信さんに会いたくないのはなぜ?
吉見佑子:そういうちょっと訳のわからないような答えが出ましたところでですね。詩人の渡辺武信さんをお迎えするんですけれども。その前にですね、なぜ詩人の渡辺さんをお迎えしたかということについて松本さん。
松本隆:僕が電話でね、今度ゲストで渡辺さんを呼ぶけれどどうしますかって言われたときにね、どうせ好きな詩人っていうのはね、渡辺武信さんと清岡卓行さんと、ちょっともういないけど宮沢賢治さんなんですね。
吉見佑子:あぁー、そうですか。
松本隆:それでひとり死んじゃったからもう会わなくて済むんだけど、あとの2人にもなんとかして生きている間は会わないようにしようと思ってたんですけど、今日会っちゃったわけです。
吉見佑子:それでまあ、お話……で、渡辺さんっていうのはどうして会いたくないわけですか?もちろんすごい人、詩だからだと思うんですけれども。
松本隆:そうですね。なんていうのかな。ちょっとファン心理ですね、きっと。憧れみたいなものがあって……。
吉見佑子:で、渡辺さんの詩のどこに憧れたんですか?
松本隆:結局出てくる言葉なんかがね、ちょっと信じられないほど僕の好きな言葉があったり……んと、好きなんですよ。
「やさしさ」と「弱々しさ」
吉見佑子:そういうところで、渡辺さんこんばんは。
渡辺武信:こんばんは。
吉見佑子:ちょっとお話をしていただきたいと思うんですけれども。渡辺さんはどうですか?はっぴいえんどをお聞きになって。初めてだそうですけど。
渡辺武信:僕はあんまりだいたいはっぴいえんどに限らずロックを聞いてないんですけれども。今度聞いてみての感想ということなんだけれど、これはまあ当然一口では言えないんだけど、やはりこう非常にこうエネルギッシュな感じではなくて、ロックという僕らが持っている普通のイメージとは違って、外から見ているイメージと、非常にこうやさしさみたいなものがある。それで、そのやさしさというのは実は非難する意味ではないんだけど弱々しさにつながるものであって、その弱々しさっていうのは一体なんだろうと思うんですね。その弱々しさというのは僕はやっぱり惹かれるわけなんですけど。つまり空威張りしてエネルギッシュであるということの反対のなんかナイーブな弱々しさみたいなもの。これはまぁ、歌の題名ではないけれども、非常に抱きしめたいような弱々しさでもあって、たぶん僕の中にもある弱々しさであると思うんですよね。
吉見佑子:どうですか?
松本隆:ええと、結局渡辺さんが仰ったようにね、やさしさみたいなものにすごくこだわっていて。で、僕らの前にロックがいてね、ロックやるやつはいっぱいいて、そういうやつらが結局暴力的だとかね、いわゆる音の暴力みたいなのにこだわってるでしょ。そういうのに反発したり、それから僕の中にあるやさしさみたいなのをね、もっとこだわり続けたいよね。そういうことからこういう『風街ろまん』みたいなのができたんです。
「保護してくれる都会に対する憧れ」
吉見佑子:彼の弱々しさとかやさしさについてどう思いますか?
渡辺武信:非常に都会のことがよく出てくるわけだけれども、都会というのもつまり高速道路ができたりそれからGNPが世界一になる前の都会であって、人間を保護してくれるような都会っていうようなものに対する憧れ。つまり幼年期の記憶もあるかもしれないけども、今現在あるものとしては都会そのものではなくて、その路地とか舗道とかそういうものに対する執着というのは、やはりこれは非常に弱いんですね。環境に保護されたいということ、環境に自分の感情を纏らせなければ生きていけない。しかしそれはやっぱり自然ではなくて、やはり人間を保護してくれる大袈裟に言えば文化みたいなものに対する憧れであって、それが非常に日常的な感覚からうまく出ているから、これは当然誰でも持っているものだと思うんですね。それはつまり今の都会というのが逆に言うと人間を保護しなくて、むしろ非常に敵対的な環境になっているということ。つまり人間に対して都会というものが本当は保護してくれるはずのものなのに、非常に敵対的になっているという。そういうことに対する静かな抗議の声みたいなもので。弱々しいけれども誰にでも訴えるようなところがあるんじゃないでしょうか。弱々しいというのは、だからさっきから言っているように非難の意味ではないわけです。ただ弱々しいということに対して問題がないわけではないですよね。ある人から言わせればこういう歌ではしょうがないという疑念は当然出てくるわけで、僕の中にももう本当に弱々しすぎるというような感じも4分の1ぐらいないではないけれども。もし誰かがこういう弱々しさみたいなものを、いわゆるエネルギッシュを第一とするという立場から非難するとすれば、僕は当然それを弁護する側にまわるというような感じですね。
吉見佑子:でね。松本さんは渡辺さんのなかにやっぱり違った弱さみたいなものを感じたんですか?そうじゃない?
松本隆:ええとね、渡辺さんの詩のなかでね、なんだっけ、街路を駆け抜けると風が頬のあたりでやさしく、世界のやさしさを発見するのだ。ああいう意味のやさしさみたいなのはね、僕なりに一生懸命追いかけているんだけど。
渡辺武信:だからそれは僕の書いたものに対して直接関係はないかもしれないけど、やはり本当の街というですね、本当の都会っていうものね、で、歴史上そんな街が本当にあったのかどうかわからないけれども、理想化された人間の住んでいる環境、街というものに対する憧れじゃないですか。だから、だけれどもそれは田舎ではないので材料としては現実にある街の中から、それをきっかけにして幻の街みたいなものを作り出さなきゃいけないから、そのきっかけとして使われるものがいわゆる今都会を作っているものじゃなくて昔の都会の残像ね、つまりそれで同時になんていうかなエネルギッシュなものじゃなくてむしろ昔のものになってしまうのは、彼自身が子供の頃っていうのは親に保護されてるでしょ、だからそういう記憶と重なりあるわけよ。で、その頃たしかに都会もよかったけども、大人にとってはその時代はその時代で都会の厳しさがあったかもしれないけど、現在彼が昔の街のイメージみたいなものを思い出すと現実の街から、それからもうひとつはそれが同時に彼の少年期の記憶につながっていたとすれば、少年期というものがそもそも保護されているものだからね。だけど本当はそれはだからそういう幻の街みたいなものが大袈裟にいうとそういうものを作ろうと思ってさ、歌ではそういうものは作れないけども、作ろうと思えば今のこの街全部ひっくり返さなければいけないというひとつの大きなエネルギーに変わるべきもので、だけど歌ではそういうものを直接訴えようとすればさ、今のいわゆるエネルギッシュな歌になってしまって空騒ぎになってしまうから、むしろこういう弱々しさのほうが本当はなんていうか大袈裟に言えばエネルギッシュな声よりも革命的なのだというふうにいえるかもしれない。
吉見佑子:どうですか?
松本隆:その通りです。
吉見佑子:意見が一致しましたところで「花いちもんめ」
語尾「です」について
吉見佑子:渡辺さんから彼に何かあれば。
渡辺武信:僕の方から逆に少し聞いてみたいと思うのは、今までの曲でもそうだけど「なんとかなんです」っていうそういう終わり方の語尾の言葉が非常に多いし、それがふたつの面があって、ひとつは僕の感じではたぶんロックのリズムに乗せた時にその語尾の「です」っていう強さがリフレインになったときに非常に効果的に生かせてると思うんですけれども、これは歌う人に聞いてみたいわけです。それからもうひとつは「です」っていう言葉の意味がね、こう感じがさ、言葉として「なんとかなんだ」って主張するんではなくて、こう「なんとかなんです」っていう密かに主張しているような、彼のいう弱々しさ、抗議をするのではなくて僕はこうなんですって訴えているような感じで、しかもその「です」っていう言葉がちょっと丁寧な言葉なもんだから、逆にちょっとは皮肉に聞こえる場合もあるし、非常にこの言葉だけの意味としてもね、おもしろいと思うんですよね。リズムに合ってると思うんだけれど。
松本隆:ちょっと「なになになのだ」なんていうのはちょっと……。
渡辺武信:「~だ」というのはウッドストックでありまして。歌うほうで「です」っていうのはどうなんですか?そういうリフレインが……。
細野晴臣:えっと。「です」の専門家が。
吉見佑子:大瀧さんの「です」は残りますね。1枚目のLPも「です」ばっかり残ってますような気がしましたけど。
大瀧詠一:最初ね、松本の実は「です」がすごい多かったんです。で、最初歌ってみたらすごいぎこちなくてね、僕の当然歌い手としての至らなさは置いておいてね、すごくなんかやりにくかったんですよね。そのうちやっている間になんていうか、その日によっていろんな感じが出せるんです。「です」で。いろんなそのときによっていろんな変な感じでやれるんですね。
渡辺武信:「です」っていうのは歌い上げるときにはさ、一番おしまいで口つぶるからやりにくいでしょ。
大瀧詠一:最初そうだったんです。すごく。でも「です」がね、一番多くなってきて。「です」ってやり方によっていろんな意味にとれるっていう。例えば遠藤賢司くんの場合だと「でーすっ」って。例えば「です」にしたり「で」を伸ばして「す」にしたり「ですー」と伸ばしたりいろんなやり方があるから。そうすっと「です」っていう言葉のさっき仰ったような中間的な意味とうまく……。
渡辺武信:そうか。却って割と無声格なためにいろんなニュアンスがつけられるってね。
吉見佑子:大瀧さんの歌に関してはみんなだいたい同じようなですね、なんとなく強引な感じがしたんですけどね。
大瀧詠一:最初はまさに強引ではありましたよ。
渡辺武信:だから僕は知らないけども、彼が言った他の歌い手さんね、はっぴいえんど以外の歌い手さんはだいぶ感じが違ってくるんですね。だから僕はそういうことはすごく大事なことだと思うんです。つまり「です」っていう言葉のニュアンスを曲をつけることによって発見していくみたいなね。「です」っていうのは、あんまり歌謡曲では出てこないね。
吉見佑子:そうですね。最近ちょっとあるみたいですね。
松本隆:最近コマーシャルでもちょっと真似されたというか。
渡辺武信:そういう形でさ、日本語のね、つまりいわゆる新しいことじゃなくて、しかも単語……単語って名詞やさ、そういう具体的に物を指す言葉じゃなく語尾みたいなもののニュアンスをさ、曲をつけながらいろいろ発見していくっていうのははっぴいえんどに限らずね、すごくおもしろいことですね、やっぱりね。今の話はすごくおもしろかった。
大瀧詠一:最初のLPの場合は初めてのLPで、それで初めてなんですね、ああいうロックの歌を歌うの。だから多少僕としては暗中模索的な形だったので強引に聞こえたかもしれない。
吉見佑子:で今、弱々しさみたいなものに「です」っていうのがあるっていう風に言われたときに、あぁそうだと思ったんだけど。私は大瀧さんを通して松本くんの詩を聞いてるでしょ。するとね、またぜんぜん違うんだわね。それでさっきの「春らんまん」の詩はどうですか?
「夏なんです」のリフレイン
渡辺武信:「春らんまん」ね。
吉見佑子:ここにありますけどね。
渡辺武信:「春らんまん」。
松本隆:ちょっと冗談……。
渡辺武信:うん、これはおもしろいね。おもしろいけど僕はやっぱり今までかかった曲では僕は「夏なんです」っていうのが一番好きだな。
吉見佑子:あぁ、そうですか。それはどういうところでですか?
渡辺武信:これもまたうまく言えないけれど、リフレインがすごくうまく使われていると思うんだ。「ギンギンギラギラ」から始まってさ「日傘ぐるぐるぼくはたいくつ」っていうのはこれは非常にいい。これは曲の方もこのリフレインの部分が非常によくてね。だけど「日傘ぐるぐる」っていうのは、これまた話が飛ぶけど日傘と聞こえないね。これはやっぱり書く方の問題ね。皆さんって聞こえる。僕は退屈。皆さんはぐるぐる動き回っているけど僕はこれは退屈なんだっていう。皆さんぐるぐるって聞こえる。
細野晴臣:滑舌がわるい……。
松本隆:日本語の発音を勉強します。
吉見佑子:えー、そういうところでさっき話に出ました「春らんまん」。
自己対象化
吉見佑子:こういう風にずらーっと見てらして、いろいろ聞いてきたわけですけれども、なんかありませんか?
渡辺武信:だから僕は、全体としてはさっき言った、つまり本当は非常に攻撃的なものを含めている弱々しさみたいなものがはっぴいえんど音楽であり、松本くんの詩の特徴だと思うんですけども、その中にはやはり現在の段階では弱々しさがもう少しね、歌として僕らをもう一歩引き込むためには、もう少し言葉と音楽がぴったりくっつきすぎてる、あるいは松本くんの言いたいことと松本くんの言葉がくっついているというようなところをもうちょっとね、なんていうかな、硬い言葉で恐縮ですけど自己対象化みたいなね、見方がちらっと入ってくるともっとおかしくなるんじゃないかと、よくなるんじゃないかと思うんですね。部分的には特に今までかかった歌のなかでもリフレインの部分ではね、非常にこのいい、そういうリフレインの部分で歌全体のムードからちょっと離れてみてというようなところがあって、そういう意味では「夏なんです」のリフレインなんかはそういう効果がある程度発揮されてると思うんですけど。そういうことがもっとあってもいいんじゃないかなと思うんです。
松本隆:はい。
吉見佑子:はいって素直なお答えが出ましたけども。
渡辺武信:やー、もうお説教したみたいになっちゃった。恐縮です。
吉見佑子:これでまた3枚目のLPの変化が期待できると思いますので。とにかく今2枚目のLPを今日はご紹介しました。はっぴいえんどの皆さん、そして詩人の渡辺さん、どうもありがとうございました。
不明:さよなら。
King Crimson「Peace - An End」
ロシア軍がウクライナに侵攻し戦争が始まった。King Crimsonに「Peace - An End」という曲がある(作詞はメンバーのピート・シンフィールド)。今回はその歌詞を和訳して、戦争反対と平和への願いを共有したい。
「Peace - An End」(Fripp/Sinfield)
Peace is a word of the sea and the wind
Peace is a bird who sings as you smile
Peace is the love of a foe as a friend
Peace is the love you bring to a child
平和は言葉、海と風の言葉
平和は鳥、あなたが笑うように歌う鳥
平和は愛、友人のように敵を愛すること
平和は愛、あなたが子供にもたらす愛
Searching for me
You look everywhere except beside you
Searching for you
You look everywhere, but not inside you
私を探すとき
あらゆる場所を探すけどあなたの側を見ない
あなたを探すとき
あらゆる場所を探すけどあなたの裡を見ない
Peace is a stream from the heart of a man
Peace is a man whose breadth is the dawn
Peace is a dawn on a day without end
Peace is the end, like death of the war
平和は小川、人の心から流れる小川
平和は人、夜明けのように寛容な人
平和は夜明け、終りなき一日の夜明け
平和は終り、戦争の終焉のような終り
2021年ベストアルバム
サブスクが普及する前は旧譜やリイシューばかり聞いていて、年間ベストアルバムを発表できるほど新譜を聞いていなかったのだけれど、数年前にSpotifyのプレミアム会員になってからは以前より新譜を聞く機会が増えた。
そこで私の個人的な2021年ベストアルバムを発表したいと思う。選出基準は世間的にヒットしたとか、2021年という時代ににそのアルバムが発表された意義とか、そういうのはまったく抜きにして、あくまで個人的に好印象を持ち繰り返し聞いたアルバムである。記事タイトルはベストアルバムとしたが、そういった意味ではフェイヴァリットアルバムの方が適切かもしれない。
以下、順位はなくリリース順に紹介する。
- Steven Wilson『THE FUTURE BITES』
- THE YELLOW MONKEY『Live Loud』
- black midi『Cavalcade』
- V.A.『風街に連れてって!』
- 矢野顕子『音楽はおくりもの』
- 桑田佳祐『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』
- King Crimson『Music Is Our Friend』
- Brian Wilson『Long Promised Road Original Motion Picture Soundtrack』
- KIRINJI『crepuscular』
Steven Wilson『THE FUTURE BITES』
Steven Wilsonの6thソロアルバム。当初は2020年6月に発売予定だったが新型コロナウイルスのパンデミックを理由に発売が延期され2021年1月に発売された。2021年1月もパンデミックの真っ只中だったので延期の意味があったのかはわからない。
私がSteven Wilsonを聞き出したのは『The Raven That Refused To Sing (And Other Stories)』(2013年)からで、きっかけはProg誌の発表したランキングで上位にランクインしていたから。
ただ『To The Bone』(2017年)からエレクトロポップ/シンセポップへと路線変更する。当時はSteven Wilsonにプログレを期待して聞いていたので路線変更に戸惑いがあった。
本作も基本的には『To The Bone』(2017年)と同じ路線のエレクトロポップ/シンセポップだけれど、この人が作ると一筋縄ではいかないし、表面的なジャンルが変わってもSW節は変わらない。それがわかってからはジャンルなんか関係なく良い音楽を作るミュージシャンという認識になった。
アコースティック・ギターの響きが初期のDavid Bowieを思い起こさせる「12 THINGS I FORGOT」がフェイヴァリットトラック。
THE YELLOW MONKEY『Live Loud』
THE YELLOW MONKEYの2枚目のライブアルバム。2001年の活動停止前の曲はそれなりに聞いていて、好きな曲もいくつかあったけれど、2016年に再結成してからの動向はまったく追っていなかった。
有名な曲が収録されていることをきっかけに本作を聞いたが、2016年の再結成以降の「ALRIGHT」「砂の塔」や「天道虫」といった曲が2001年の活動停止前の曲と同じぐらいかっこよかった。
若者にとってロックが旧態依然としたものだったりかっこ悪いものと捉えられがちな昨今だけれど、THE YELLOW MONKEYは変わらずに色気のあるあやしくてかっこいいロックをやっていた。
再結成後のシングル曲「砂の塔」がフェイヴァリットトラック。
black midi『Cavalcade』
black midiの2ndアルバム。1stアルバム『Schlagenheim』が話題になったときにも聞いたけれどそのときはピンとこなかった。
だけれど本作は先行シングルの「John L」を聞いたときからシンプルにかっこいいと感じた。2ndアルバムの方が好みなのは1stアルバムより作曲を重視しているからだろうか。
ジャンル的にはインディーになっているが、キング・クリムゾンからの影響を公言しておりプログレ的な側面もある。サウンド的には現代ジャズシーンと呼応するものも感じた。
UKのインディーシーンが今熱いということで、他にも話題のバンドがあり気になったがしっかり聞き込めず。
先行シングルだった「John L」がフェイヴァリットトラック。
V.A.『風街に連れてって!』
松本隆のトリビュートアルバム。亀田誠治がサウンドプロデュース。収録された曲はいずれも名曲だから、どう転んでも大きくはずれようはないのだけれど、人選・選曲・アレンジがよかった。
収録された曲のオリジナルが流行っていた世代には幾田りら(YOASOBI)、川崎鷹也、DAOKO、GLIM SPANKY、Little Glee Monsterといった新世代のアーティストを紹介することができ、それら若いアーティストのファンには往年の名曲を紹介することができる。
名曲を歌い継ぐということはもちろん、このアルバムを通じて幅広い世代が交流できるという意味でも意義深いアルバムだった。
池田エライザが歌った「Woman "Wの悲劇"より」と川崎鷹也が歌った「君は天然色」がフェイヴァリットトラック。
矢野顕子『音楽はおくりもの』
矢野顕子の28thアルバム。近年の矢野顕子のアルバムはまったく追っていなかったので、彼女のキャリアでこの作品がどういう位置づけになるのかわからない。
矢野顕子という唯一無二のボーカリスト/ソングライターがいて、良い曲があって、良いアレンジがあって、良い演奏があるというそれだけの作品。
それらしいことを言うと小原礼(ベース)、林立夫(ドラムス)、佐橋佳幸(ギター)という気心の知れた固定メンバーで全曲レコーディングしたのがよかったのだろう。
Twitterで"The Yanoakiko"というバンドだと矢野顕子、小原礼、林立夫がツイートしていたように、シンガーソングライターとスタジオミュージシャンという関係性ではない一体感がある。
アルバムを聞く前はベースが小原礼でドラムが林立夫とくれば、ギターは佐橋佳幸ではなく鈴木茂のほうが良かったのではと思ったけれど、実際に聞くとしっかりと佐橋佳幸だからこその音になっていた。
コロナ禍において私達にとって音楽の意味とはなにか見つめ直したと言えそうな「音楽はおくりもの」がフェイヴァリットトラック。
桑田佳祐『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』
桑田佳祐のEP。放っておくと70分ぐらいのフルアルバムを作ってしまう桑田佳祐だが、本作は6分で約26分と非常にコンパクト。サブスク時代に向いている長さだと感じた。
「SMILE~晴れ渡る空のように~」は新型コロナウイルスのパンデミックによって国民に支持されない東京オリンピックの応援ソングとなってしまったのは不運だった。
それでも"夢に向かってがんばろう"や"一緒に盛り上がろう"ではなく「世の中は今日この瞬間も 悲しみの声がする 次の世代に 何を残そうか」といったメッセージを込めた歌詞だったのは不幸中の幸いだった(ちゃんと歌詞を読まないでこの曲を批判している人もいたが)。
「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」と「炎の聖歌隊 [Choir]」は近年の桑田佳祐の楽曲の中でも会心の出来だった。新機軸はなく金太郎飴かもしれないが、ファンの多くが桑田佳祐に期待する"洋楽の影響を受けた歌謡曲"に完全に応えた楽曲だった。
「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」と「炎の聖歌隊 [Choir]」がフェイヴァリットトラック。
King Crimson『Music Is Our Friend』
King Crimsonのライブアルバム。2014年にトリプルドラム編成で活動を再開してから何枚もライブアルバムをリリースしているし、正直またかという気がしないでもない。
それでも本作が特別な意味を持つのはKing Crimsonの最後のアメリカツアーの最終日を収録した作品であること。そして11~12月にKing Crimsonの最後のジャパンツアーが行われたからである。
現行編成のKing Crimsonがその活動の最後の地に日本を選んだこと、ジャパンツアーが奇跡的なタイミングで成功したことも日本のファンにとっては特別な思い出だ。その最後のジャパンツアーを振り返るには、ほぼ同じセットリストでほぼ同じアレンジの本作が最適だ。もちろん演奏もすばらしいことは言うまでもない。
本作はCD化のためのミキシングは行っていないオフィシャルブートレグであり、おそらくいずれは最後のジャパンツアーを収録したCDや映像作品がリリースされるだろう。
Brian Wilson『Long Promised Road (Original Motion Picture Soundtrack)』
Brian Wilsonの新しいドキュメンタリー映画のサウンドトラックアルバム。Brian Wilsonは彼の書いた「God Only Knows」などの名曲をピアノソロで演奏する『At My Piano』を11月にリリースしたが、ほぼ同時期に配信限定でこのサントラがリリースされた。
映画を見ていないのでサントラ収録曲が映画本編でどのように使われているのかわからない。ただ、本作に収録されているのはいわゆる劇伴音楽ではない。
Brian Wilsonの新曲、新録音と思われるカバー、新録音と思われるThe Beach Boys曲のセルフカバー、ブートレグではおなじみだったがオフィシャルリリースは初の蔵出し音源などで構成されている。実質的にBrian Wilsonのソロアルバムとして聞ける充実した内容だ。
配信限定なのであまり宣伝には力が入っていない気がする。誰もが知っている有名な曲が収録されている『At My Piano』のほうが売れるのかもしれないが、個人的にはピアノソロよりもBrian Wilsonの歌声が聞ける本作のほうが好みだ。
KIRINJI『crepuscular』
バンド形態を解消し堀込高樹のソロプロジェクトとなったKIRINJIの新体制としては初めてのアルバム。
一昨年ぐらいからKIRINJIにドハマリしていて、このアルバムもかなり期待していた。
『cheristh』リリース時のインタビューで堀込高樹は、次作は方向性を変えようかと思っていたが『cheristh』の路線が好評なのでこの路線で続けたいと語っていた。
実際に本作は基本的には『愛をあるだけ、すべて』『cherish』の流れを汲む作品である。
ただ『愛をあるだけ、すべて』『cherish』がフロア向け(=ダンス・ミュージック)のビートだったり音響だったりしたのに対し、コロナ禍で集まることができずに家でひとりで音楽を聞くシーンが増えたことを意識してか、本作はヘッドホン向けの音楽性/音響になった印象を受けた。世の中的には"チル"が流行しているらしいが、本作もチル要素が強い。
『愛をあるだけ、すべて』や『cherish』を超える傑作とまでは感じなかったものの、期待通りの高水準のアルバムだと思う。
コロナ禍を歌った曲が何曲か収録されているが、そのなかでも「再会」がフェイヴァリットトラック。
キング・クリムゾン2021年来日公演に向けて
いよいよ、11月27日の東京国際フォーラム公演をかわきりにキング・クリムゾンの来日ツアーが始まります。新型コロナウイルスのパンデミックで来日ツアーの開催が危ぶまれましたが、幸いにも来日を前にして感染状況が落ち着きました。
キング・クリムゾンは7月20日~9月11日にかけてアメリカツアーを行いました。これが"最後のアメリカツアー"だと言われています。
明確な形でキング・クリムゾンの活動休止や解散がアナウンスされたわけではありませんが、メル・コリンズ、トニー・レヴィン、ジャッコ・ジャクジクがそれぞれインタビューで2022年以降のライブの予定が入っていないことを明言しています。
もちろん2023年以降にライブ活動を再開する可能性はゼロではありませんが、現在ロバート・フリップが75歳であることを考えると、先のことは現時点で断言できません。
つまり11月27日~12月8日にかけて行われる来日ツアーが(トリプルドラム編成の)現行キング・クリムゾンの最後の活動となる可能性が高いわけです。
それでは、来日ツアーのセットリストを予想するために2021年夏のアメリカツアーのセットリストを振り返ってみましょう。
2021年夏のアメリカツアーではトリプルドラムのみの曲やトニー・レヴィンのカデンツァ(短い即興演奏)を除くと以下の20曲が演奏されました。
- 『In The Court Of The Crimson King』(1969年)より
- 21st Century Schizoid Man
- Epitaph
- The Court Of The Crimson King
- 『In The Wake Of Poseidon』(1970年)より
- Pictures Of A City
- 『Lizard』(1970年)より
- Cirkus
- Dawn Song
- Last Skirmish
- 『Islands』(1971年)より
- Islands
- 『Larks' Tongues In Aspic』(1973年)より
- Larks' Tongues In Aspic, Part One
- Larks' Tongues In Aspic, Part Two
- 『Red』(1974年)より
- Red
- One More Red Nightmare
- Starless
- 『Discipline』(1981年)より
- Indiscipline
- Discipline
- 『Beat』(1982年)より
- Neurotica
- 『The ConstruKction Of Light』(2000年)より
- The ConstruKction Of Light
- 『The Power To Believe』(2003年)より
- Level Five
- スタジオ録音されていない現行編成の曲
- Radical Action II
- Suitable Grounds For The Blues
2019年に行われたヨーロッパツアーと北米ツアーでは合わせて37曲が演奏されたことを考えると大幅なレパートリー減です(2018年の来日ツアーの34曲と比べても14曲のレパートリー減です)。
また1回の公演で演奏する曲数も減り、演奏時間も2時間弱と短くなっています。
なぜレパートリーが減ったのかは明らかにされていません。あくまで私の推測ですが、2020年にライブ活動を休んだために既存のレパートリーを覚え直す必要があったからではないでしょうか。
(ビル・リーフリンのキーボード転向にあたって、彼の病気が伏せられていたことを考えると)もしかしたらメンバーの誰かの体調が優れず長時間のライブが難しくなった可能性も考えられます。
セットリストが大きく変わらないということは、マニアが複数公演に行く意義が減ったと言えます。
逆に言えば「21st Century Schizoid Man」や「Red」といった人気曲が高い頻度で演奏されるため、複数公演に行かなくても代表曲/人気曲が聞ける可能性が高まりました。
(2018年の来日ツアーでは「21st Century Schizoid Man」を演奏したのは15公演中10公演でした。「21st Century Schizoid Man」をやらなかった日のお客さんは消化不良な様子でした)
また2021年夏のアメリカツアーは1stレグと2ndレグに分かれていたのですが、1stレグでは演奏されなかった「Larks' Tongues In Aspic, Part Two」が2ndレグでは演奏されました。
(逆に1stレグで演奏された「Cirkus」と「Suitable Grounds For The Blues」は2ndレグでは演奏されませんでした)
2015年や2018年の来日と同じように日本で数日間リハーサルをするものと思われます。つまりこの20曲以外の曲が来日ツアーで演奏される可能性も十分ににあります。1~3曲程度レパートリーが増えるかもしれません。
チケット代が高額なことや、コロナ禍でライブに行くことに対する周囲の目が厳しいなど、様々な事情があるとは思います。
ですが現編成におけるキング・クリムゾンのライブは今回が最後となる可能性が高いです。もっと言えばキング・クリムゾンとして最後のライブ、ロバート・フリップの最後の来日公演となるかもしれません。
いろいろ厳しい状況だとは思いますが、皆様も後悔のないように来日ツアーに行けるファンはぜひ現行キング・クリムゾンの有終の美を目に焼き付けましょう。
「風街オデッセイ2021」予定演奏曲目
いよいよ11月5日(金)、11月6日(土)に日本武道館で松本隆の作詞活動50周年を記念するライブ「風街オデッセイ2021」が行われます。公式サイトに出演者と予定演奏曲目が掲載されています。この記事では誰がどの曲を歌うのか予想していきます。
11月5日(金)第一夜
- Woman“Wの悲劇”より(薬師丸ひろ子)
- 風の谷のナウシカ(安田成美)
- 君は天然色(大滝詠一)
- シンプル・ラブ(大橋純子)
- 赤道小町ドキッ(山下久美子)
- 卒業(斉藤由貴)
- 夏色のおもいで(チューリップ)
- ハイスクールララバイ(イモ欽トリオ)
- ポケットいっぱいの秘密(アグネス・チャン)
- 木綿のハンカチーフ(太田裕美)
- 誘惑光線・クラッ!(早見優)
- 夢色のスプーン(飯島真理)
- リップスティック(桜田淳子)
- ルビーの指環(寺尾聰)
- Romanticが止まらない(C-C-B)
第一夜は公式サイトに予定演奏曲目として14曲が掲載されています。カッコ内はオリジナル歌手の名前です。
「風の谷のナウシカ」「シンプル・ラブ」「赤道小町ドキッ」「卒業」「ハイスクールララバイ」「ポケットいっぱいの秘密」「木綿のハンカチーフ」「誘惑光線クラッ!」「Romanticが止まらない」の9曲はオリジナル歌手が出演するので本人が歌うと思われます。
2021年7月14日に発売されたトリビュートアルバム『風街に連れてって!』で川崎鷹也が「君は天然色」を横山剣が「ルビーの指環」を歌っているので、この2人がそれぞれの曲を歌うと思われます。同アルバムのサウンドプロデューサーである亀田誠治も出演者に掲載されており、彼も一緒にステージに立つでしょう。
では残りの4曲「Woman“Wの悲劇”より」「夏色のおもいで」「夢色のスプーン」「リップスティック」は誰が歌うのでしょうか?
出演者のなかで何を歌うのかわからない人が数人います。佐藤竹善、鈴木瑛美子、曽我部恵一、武藤彩未、森口博子の5人です。
佐藤竹善は追加出演者として後になって発表されたこと、これらの予定演奏曲目はそれ以前から掲載されていたことから、残りの4人が4曲を歌うのではないでしょうか。
オリジナルが男性ボーカルの曲は「夏色のおもいで」だけなので、曽我部恵一が「夏色のおもいで」を歌う可能性が高いと予想します(追記:松本隆のツイートしたリハーサル写真にはっぴいえんどの3人と鈴木慶一と曽我部恵一が写っていました。はっぴいえんどの3人と一緒にはっぴいえんどの曲を歌うのかもしれません)。
武藤彩未は2021年4月に東京国際フォーラムで行われた「ザ・ヒット・ソング・メーカー 筒美京平の世界 in コンサート」に出演しています(ちなみにこのライブは松本隆も観に行っています)。そのときに武藤彩未は薬師丸ひろ子「あなたを・もっと・知りたくて」を歌っていることから、今回も同じく薬師丸ひろ子の曲である「Woman "Wの悲劇"より」を歌う可能性が高いと予想します。
トリビュートアルバム『風街に連れてって!』のサウンドプロデューサーである亀田誠治が出演することから、『風街に連れてって!』で「夏色のおもいで」を歌った吉岡聖恵や「Woman "Wの悲劇”より」を歌った池田エライザがシークレットで出演する可能性もゼロではないでしょう。
個人的には『風街に連れてって!』に収録されている池田エライザによる「Woman "Wの悲劇”より」が本当にすばらしく大好きなので(可能性は低いと思いますが)シークレットとして出演してくれないかと期待しています。
ちなみに2015年に東京国際フォーラムで行われた「風街レジェンド2015」では吉田美奈子が、2017年に恵比寿ガーデンホールで行われた「風街ガーデンであひませう」では畠山美由紀が「Woman "Wの悲劇"より」を歌っていますが、2人とも第二夜の出演です。
11月6日(土)第二夜
- A面で恋をして(ナイアガラトライアングル)
- CAFE FLAMINGO(安部恭弘)
- ガラスの林檎(松田聖子)
- 綺麗ア・ラ・モード(中川翔子)
- 罌粟(畠山美由紀)
- しらけちまうぜ(小坂忠)
- SWEET MEMORIES(松田聖子)
- 砂の女(鈴木茂)
- スローなブギにしてくれ(I want you)(南佳孝)
- 星間飛行(ランカ・リー=中島愛)
- SEPTEMBER(竹内まりや)
- 代官山エレジー(藤井隆)
- てぃーんず ぶるーす(原田真二)
- Do You Feel Me(杉真理)
- 眠りの森(冨田ラボ feat. ハナレグミ)
- バチェラー・ガール(稲垣潤一)
- フローズン・ダイキリ(クミコ with 風街レビュー)
- ミッドナイト・トレイン(ザ・スリー・ディグリーズ)
第二夜は公式サイトに予定演奏曲目として18曲が掲載されています。カッコ内はオリジナル歌手の名前です。
「CAFE FLAMINGO」「綺麗ア・ラ・モード」「罌粟」「しらけちまうぜ」「砂の女」「スローなブギにしてくれ(I want you)」「星間飛行」「代官山エレジー」「Do You Feel Me」「眠りの森」「バチェラー・ガール」「フローズン・ダイキリ」の12曲はオリジナル歌手が出演するので本人が歌うと思われます。
「代官山エレジー」のオリジナル歌手は藤井隆ですが、作曲がキリンジの堀込高樹です。キリンジは「代官山エレジー」をセルフカバーしていることから、2017年に恵比寿ガーデンホールで行われた「風街ガーデンであひませう2017」では元キリンジの堀込泰行と藤井隆が一緒にこの曲を歌いました。今回も2人のコラボレーションが実現する可能性が高いです。
「A面で恋をして」のオリジナル歌手はナイアガラトライアングル(大滝詠一・佐野元春・杉真理)です。2015年に東京国際フォーラム行われた「風街レジェンド2015」では伊藤銀次・佐野元春・杉真理の3人で歌いました。今回は佐野元春の出演は予定されていませんが、伊藤銀次・杉真理の2人で「A面で恋をして」を歌うことはこれまでもあったことから、今回もこの2人が歌うと予想されます。シークレットで佐野元春が出演する可能性、あるいは別の誰かが佐野元春のパートを歌う可能性もゼロではないでしょう。
「ガラスの林檎」のオリジナル歌手は松田聖子です。2008年に発売された細野晴臣トリビュートアルバム『細野晴臣 STRANGE SONG BOOK』では吉田美奈子がこの曲を歌っており、2015年に東京国際フォーラム行われた「風街レジェンド2015」でも吉田美奈子がこの曲を歌いました。今回も吉田美奈子が歌う可能性が高いです。
「SWEET MEMORIES」もオリジナル歌手は松田聖子です。シングル「ガラスの林檎」のB面です。2017年に恵比寿ガーデンホールで行われた「風街ガーデンであひませう2017」でさかいゆうがこの曲を歌っており、今回もさかいゆうが歌う可能性が高いです。
「SEPTEMBER」のオリジナル歌手は竹内まりやです。この曲のオリジナルバージョンではEPOがコーラスとして参加しています。また2015年に東京国際フォーラム行われた「風街レジェンド2015」でもEPOがこの曲を歌いました。今回もEPOが歌う可能性が高いです。
また2013年に発売された稲垣潤一によるカバーアルバム『男と女4』では稲垣潤一とEPOがデュエットで「SEPTEMBER」を歌っています。同日に稲垣潤一の出演も予定されていることから、EPOの単独歌唱ではなく稲垣潤一とのデュエットになる可能性もあるでしょう。
「ミッドナイト・トレイン」のオリジナル歌手はザ・スリー・ディグリーズです。女性3人組グループであることから、同じく3人組である星屑スキャットが歌う可能性が高いです。
以下、公式HPの予定演奏曲目には掲載されていませんが演奏する可能性が高い曲を紹介します。
2015年に東京国際フォーラムで行われた「風街レジェンド2015」では鈴木茂・南佳孝がオリジナルがこの2人のデュエットであるティン・パン・アレー「ソバカスのある少女」を歌いました。今回も2人でこの曲を歌う可能性が高いです。
2017年に恵比寿ガーデンホールで行われた「風街ガーデンであひませう2017」では堀込泰行・畠山美由紀・ハナレグミでこの3人がオリジナル歌手である「真冬物語」を歌いました。今回も3人でこの曲を歌う可能性が高いです。